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ファッションから読み取れるキャラクターの背景きらびやかなダンスや驚倒のアクションで時間が経つのも忘れさせてくれるのがインド映画。しかしそれ以外のストーリー部分には、外国人観客からは見過ごされがちな多くの情報が埋め込まれている。たとえば、登場人物の名前からは、宗教、カースト、出身地、職業などが分かることがある。劇中でまとわれる衣服も同じだ。例として北西インド発祥の「サルワール(=ズボン)・カミーズ(=ロングブラウス)」(俗にいうパンジャビ・スーツ)と、それがモダナイズされた「チューリダール・クルター」を見てみよう。どちらも現在はインド全域で着用されるが、「誰が・どこで・どう着るか」でニュアンスは変わる。サルワール・カミーズはドゥパッターと呼ばれる大判ショールも加えた3点アンサンブルが基本だが、サルワールの代わりにジーンズを履き、通常は膝ぐらいまであるカミーズやクルターの代わりにクルティーと呼ばれる短いブラウス、ドゥパッターは省略という着こなしがあれば、都市部の進歩的な若い女性というイメージができあがる。インド人の観客は、そうしたもの全てから情報を読み取っているのである。他方で、『マニカルニカ ジャーンシーの女王』(2019)のような歴史もの衣装の場合は、資料が少ないこともあり、時代考証にはあまり囚われずに自由にファンタジーの世界を展開する傾向があり、デザイナーの腕の見せ所となっている。 文:安宅直子(フリー編集者)